最近読んだ本(96)――朝井まかて『すかたん』

 今年の初めに朝井まかて氏の本を読んで実に面白かったので、また読みたいと思っていたところ、古本屋さんで(お金がないもので……)『すかたん』という小説を見つけた次第です。

 「すかたん」という言葉。最近ではほとんど耳にしなくなりました。“デジタル大辞泉”によりますと、

1 予想や期待を裏切られること。当てはずれ。「すかたんを食わされる」
2 見当違いなこと、間の抜けたことをする人をののしっていう語。とんま。まぬけ。すこたん。「このすかたんめ」「すかたん野郎」

 というような意味が載っていました。私は「すかたん」って大阪弁のひとつだとずっと思っていましたが、大阪弁に限らないということでしょうか、そのような記載はどこを見てもありませんでした。私が子供の頃には、親や祖母から「何をすかたんしてんねん」とよく叱られた記憶がありましたから、大阪弁だという印象があったのですがね。

 いずれにしましても、今作の舞台は大阪です。いや「大坂」の漢字を当てるべきですね。時代は前に読んだ『ちゃんちゃら』と同じく江戸時代。主人公はちゃきちゃきの江戸っ子の知里。しかし、江戸詰め藩士だった夫が急死してしまい、若くして後家となった知里は、大坂の青物問屋「河内屋」に女中奉公に出ることになります。大坂の気質に戸惑いながらも徐々に「河内屋」の暮らしに馴染んで行きます。

 「河内屋」には清太郎という若旦那がいるのですが、この若旦那はいささか変わり者。店の仕事はほとんどしない遊び人。後先なしに行動しては問題を起こすトラブルメーカー。知里は清太郎の言動に呆れるばかり。しかし、従来の商売とは違った視点から青物の未来を考える清太郎に、いつしか惹かれて行く……。

 というのがだいたいの物語の流れです。江戸時代の生き生きとした庶民の姿を想像できるのは『ちゃんちゃら』と同様なのですが、それに加えて私が興味を持ったというか、懐かしく思えたのが、登場人物の喋る大坂弁。私の子供の頃によく耳にした大坂弁。「ごめんやす(失礼します)」、「そやそや(そうそう)」、「見てみなはれ(見てごらん)」、「わての……(私の……)」、「あんじょう(しっかりと)」、などなどぽんぽんと飛び出す言葉をすべて書き出していてはきりがありません。物語は、第1章から第10章まで大きく分けられていますが、それぞれの章のタイトルも、第1章の「ちゃうちゃう」から始まって、「まったり」、「だんない」、「ぼちぼち」、「ええねん」、「しんど」、「ほな」、「かんにん」、「おもろい」と続いて第10章が「すかたん」となっています。大阪人であっても今の若い人は全く使わなくなってしまった大阪弁の懐かしさに加えて、徐々に失われていく大阪弁を残念にも思いました。

 また、物語の始めのほうで、知里がまだ馴染めない大坂の町のことを嫌いだと呟くところには苦笑しました。以下本文より抜粋です。

皆、あけっぴろげでお節介で、いったん喋り出すと止まらない。大して知らない人とでも旧知の仲みたいに心やすく口を利いては笑うし、別に可笑しくなくても笑う。笑わないと損をすると信じ込んでいるのだ。そう、大坂者は「損」が大嫌い。何かにつけて張り合って、相手の手籠をのぞいては「それ、なんぼ?」と尋ね、一文でも自分の買い物が安いと「勝った」とばかりにほくそえむ。(中略)よくも知らないくせに江戸と聞けば眉を吊り上げ、難癖をつけては大坂より下に置きたがるのだ。

 これは今現在も通じることでは? 大阪人って江戸時代からそうだったのでしょうか。少なくとも私は、巨人と聞けば眉を吊り上げてしまいますもの。

 小気味いいし清々しく、登場人物の生き生きさに心惹かれ、読後感が何とも気持ちの良い朝井まかて氏の他の作品も読みたくなった『すかたん』でした。


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