最近読んだ本(85)――和田竜『村上海賊の娘』

 時は戦国、嵐の時代。でっかい心で生きようぜ。って、これは私が小学生の頃に毎週見ていたテレビ漫画『風のフジ丸』のテーマソングですね。知らない人は知らないでしょうが。(^^ゞ でもそんな歌詞の通りにでっかい心で戦国時代を暴れ回った村上海賊の娘の物語が、今回紹介する1冊です。いや正確には1冊ではありません。文庫本で4冊。ハードカバーの本も出ていますが、それも上下の2巻となっています。歴史小説はどうしても長い話になりますね。

 今年始めに読んだ島田荘司氏の『星籠(せいろ)の海』に村上水軍の話が出て来ます。私は村上水軍のことはその名前くらいしか知りませんでしたが、ちょっと気になっていました。そんな時本屋さんで目にしたのが、この『村上海賊の娘』という本です。目にしたと同時に文庫本1~4巻までの4冊を抱えてレジに向かっていました。

 この作品は、天正4年(1576年)に毛利氏と織田氏との間に起こった木津川口の戦いを中心に描かれています。織田信長軍に攻められ包囲されている大坂本願寺への兵糧搬入を目的とした毛利水軍・小早川水軍・村上水軍を中心とする瀬戸内の水軍戦力と、それを阻止せんとする織田方の水軍戦力が大阪湾木津川河口で激突した戦いでした。

 話は、大坂本願寺側は毛利氏に兵糧の援助を頼み、それを大坂まで運んでくる手立てとして、瀬戸内海の島々を拠点としていた村上海賊に海上からの運搬を画策するところから始まります。

 村上海賊の勢力の中心にいた当主の村上武吉。彼には景(きょう)という、おてんばを通り越して、暴れん坊をも通り越したすごい娘がいました。この娘、本書の言い方を借りると、「悍婦(かんぷ)」で「醜女(しこめ)」でした。「悍婦」とは「気の荒い。じゃじゃ馬」の意。「醜女」とは説明はいりませんね。文字が表す通りの意味です。そんな娘だから二十歳を過ぎようという年になっても地元では嫁の貰い手がありませんでした。この娘が知り合った本願寺の門徒たちと共に合戦間近の難波(なにわ)へ向かうところから、物語は展開して行きます。

 その船旅に出る前にもありましたし、難波に着く直前でも、景はそりゃあもう酷い乱暴を働きます。酷いなんてもんじゃないです。腕は切り落とされるし、首は飛ぶしと船の上が筆舌に耐えがたい惨劇の舞台になるのです。それでも読んでいて痛快に思えて来るのですから、私にも残酷の血が流れているのでしょうか。それとも血も涙もないと言うべきでしょうか。いや逆に、凄惨な光景を痛快だと思わせる作者の筆力の成せる技なのでしょうか。

 景は、難波の岸に着く直前に今の大阪湾上で泉州の海賊「真鍋家」の者たちと出会います。その真鍋家の連中がこれまた愉快。まあ愉快と思ったのは私だけかな。非常に馴染みのある泉州弁が飛び交うものだから、読んでいて楽しかったです。大阪府下の堺を始め、高石、泉大津に岸和田、貝塚。さらに南に下ったところの淡輪と、現在の南海本線沿線の地名がどんどん出て来て親近感がありました。

 やがて景は、まず本願寺に今にも攻め込もうとする織田方の天王寺砦のほうに着きます。そしてすぐに泉州侍や真鍋海賊たち織田方と本願寺方の戦いが始まります。織田方は先ず本願寺方の砦である木津砦を落とすべく攻め込みます。本願寺方には紀州の豪族雑賀(さいか)氏の孫市が味方していました。壮絶な戦いが繰り広げられるのですが、景はこの戦いに参加することなく天王寺砦から戦いの顛末を見ているだけでした。本書ではこの戦いの描写が延々と続きます。文庫本の2巻目の3分の1くらいから3巻目まで続くのですから、これだけでこの物語は終わってしまうのでは、と読んでいてちょっと不安になってきましたね。

 木津砦の戦いに参加しなかった景は、ある事があり(ネタばれになるので詳しくは述べません。景の心境の変化はこの物語の重要な描写のひとつですから)、気落ちして地元能島に帰り着くのですが、そこでは大坂本願寺に兵糧を運び入れんとする大船団が準備され、明日にでも出陣しようかというところでした。景は、大船団が無事に戦果を収めて帰ってくるのを待っていましたが、一向に帰ってくる様子もなく、辛抱溜まらずと言うか、本願寺に送り届けた門徒たちを助けたい一心で、再び難波の海を目指します。村上一族の姫である景ですが、ほんとにおとなしくしているお姫様ではないですね。

 木津川口を守る織田方の船団と、毛利方=村上水軍の船団は長らく睨み合いをしていましたが、戦闘になることなく、毛利方は一旦引き上げることになります。しかし、景は、途中で雑賀衆を味方に付けたものの、僅かな手合いだけで、言わば勝手に織田方の船団に向かって行くのです(ホンマにやんちゃなお姫さんやで)。その事を知った、一旦は引き返して行く途中だった村上水軍も姫を助けねばと大挙して難波へと船を旋回させるのでした。

 そして日が暮れてから、壮絶な戦いが始まります。戦いは夜明けまで続きます。景も暴れ回り、以前知り合った真鍋家の海賊たちと戦うことになります。景は傷つき、それでも暴れ回り、そして……。ネタバレになるのでこれ以上は話せません。ただ結果は毛利・村上水軍方の勝利に終わります。結果については歴史通りですのでネタバレでもでも何でもありませんから言ってしまいました。

 作者の和田竜さんは、多くの史料を集め、それを読み解き、そしてご自身の想像力を膨らませこの作品を書き上げたことでしょう。巻末に添えられた大量の参考文献のリストがそれを物語っています。私は初めて氏の作品を読みましたが、また本屋さんで氏の名前を目にしたら、さっさと手にとってレジに並ぶとします。

 ともかく、合戦の描写がすごいです。まるで見て来たような描写です。そして、最後に感動。来年のNHK大河ドラマは西郷隆盛の話らしいですが、再来年の大河ドラマはこの『村上海賊の娘』でどうでしょう。視聴率を稼げると思いますがねえ。ただ、海戦シーンはスタジオのセットだけでは不可能ですし、海上でロケをするのも大変でしょう。CGをふんだんに使うしかないでしょうね。さらに腕や足が切り落とされ、首が飛ぶシーンはゴールデンタイムでの映像としては無理かな。大河ドラマは諦めましょうかね。


村上海賊の娘(一) (新潮文庫)
新潮社
2016-06-26
和田 竜

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