最近読んだ本(63)――有川浩『塩の街』

 一昨年の年末には『別冊図書館戦争』を、その前の年末から年始にかけては『図書館戦争(1作目)』を、さらにその前年は『空の中』、さらにさらにその前年は氏の作品と初めて出会った事になった『阪急電車』と、年末から年明けにかけて有川浩氏の小説を読むのが定例化してしまったようです。

 そして、今回は氏の出世作となった『塩の街』。これは、後に続く『空の中』、『海の底』と併せて自衛隊三部作と呼ばれているそうです。私は先に『空の中』、『海の底』と読んで来て、その最初の作品である『塩の街』も読みたいと思っていたのですが、なかなか本屋さんで目にすることはなく、ようやく昨年末にふと見つけて買った次第です。

 この文庫版には、『塩の街』本編と、そこに登場する人物のエピソードを「塩の街、その後」として4編納められています。

 まあ、有川氏は突拍子もない設定を描いた作品が多いです。空に得体の知れない巨大なものが浮かんでいたり、巨大なカニ?、エビ?が大量に海から出て来て人間を襲ったり、図書館を舞台にドンパチやったり、まあ何故そんなことになったのかと普通では考えられない舞台で物語が進行して行きます。

 今回の『塩の街』でも、突然空から巨大な塩の塊が落ちて来て、その影響からか街のほとんどの人間が塩になって死んでしまい、社会が崩壊してしまったという世界が舞台です。そんな壊滅的な世界で活躍する人たちが、他の作品同様生き生きと描かれています。

 塩の街と化した世界――作中では人間が塩になることを「塩害」と呼ばれていますが、その塩害から人類を救うために誰がどんな決死の戦いをしたかというのが本筋です。

 しかしそこには、世界を救う、人類を救うために事を起こすというような大義で動く人間は描かれていません。結果的にそういうことになっても、大事な人を守るために戦うという人の姿があるだけです。

 例え国が、世界がどうなろうとも、家族だとか愛する人、自分の大事な人を守るという実に個人的な理由でしか人は動かないものだろうとこれまでも漠然と思っていましたが、この作品を読んで、その思いが強くなりました。国だとか世界のためにではなく、愛する人のために犠牲になるという方があり得ることだろうと思いますね。

 有川氏のどの作品にも私はぐいぐいと引っ張り込まれてしまいます。物語の面白さも当然ですが、氏の文章の巧みさも大きな要因です。平易な文であるにも関わらず、端的な表現で、こちらが予想もしない言葉の用い方も実に上手いです。

 本書からある箇所を引用します。主人公のひとりの男性と、その彼を恋い慕うもうひとりの主人公の女性との会話です。
「腹立ったし焦ったしむかついた! 最近のガキャァ色気づくのは早いからな!」
「……腹立ったとむかついたは重複していると思いますけど」
「正しい日本語なんざどうでもいい!」
秋庭は真奈の添削を切り捨てて、また黙り込む。

 秋庭というのは自衛隊の隊員です。真奈というのは、彼にひょんなことで助けられた女の子です。この最後のほうの“添削”という語句に私はハッとしました。ここでこんな語句が出てくるとはと感心しました。私なら単に“そこで秋庭はまた黙り込んだ”として終わってしまうでしょうね。私なんかが思いもよらぬ“添削”なんて語句がなんなく出て来たのか、捻り出したのかは解りませんが、まあ、向こうはプロですからね。さすがです。

 突拍子もない世界を描いてはいるが、単なる男女の恋物語じゃないかと言う方もおられますが、上のような文章が随所に出て来る有川浩さんの本。私は好きです。何しろ、心が温かくなりますから。12月から1月の寒くなる時期に有川氏の本を選んで読んでしまうのは、この温かさを求めるからかも知れません。



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