最近読んだ本(61)――東野圭吾『さまよう刃(やいば)』

 東野圭吾氏の小説が好きでこれまで随分読んできた。これまで外れることのなかった面白さが最近の作品では「ちょっとなあ……」というものに出くわして、いささかがっかりしていたのです。

 それでも、やはりまた東野作品を読んで見たくなって、本屋の文庫本売り場をうろうろしていました。そして手に取ったのが今回の『さまよう刃』。随分読んで来た氏の小説でしたが、これはまだ読んでいなかったなあと買って帰りました。また外れるかも知れんと思いながら……。ただこれは最近発表されたものではありません。巻末に2004年刊行とありました。ちょっと前のものなら、読み応えのあるものだとの期待もありました。

 妻に先立たれた長峰という男。男には一人娘がいます。その愛娘が、未成年の少年グループによって弄ばれた挙げ句に殺されて、川に捨てられてしまいます。悲嘆に暮れる長峰でしたが、謎の密告電話によって犯人を知るのです。そして、娘の復讐を果たすべく……。

 というのが話の始まりです。長峰はまず少年グループのひとりを殺害してしまいます。その長峰を警察が追う。警察は先の少女殺害の犯人も追う。ただ長峰を追う刑事も一人娘を殺された父親の気持ちを理解できないでもない。少女を殺した犯人を捕らえることが警察の仕事だとしても、犯人たちは未成年で、捕らえたところで重い裁きを受けるのかどうか。刑事自身も複雑というか重い気持ちで犯人を追って行きます。

 後に東野氏は別のところで、この作品についてこのように話している文章があります。ここに引用させて頂きました。
「ある事件が起こって、それを世の中の人が知ったときに、それぞれの立場どう思うのかということを描いてみようとした。警察官以外にも加害者少年の親、加害者少年の仲間の親、事件を取り上げるマスコミ、同じような被害にあった家族、復讐を果たそうとしている人にたまたま接してしまった人。いろいろな人のいろんな思いを描くことで、こんな事件が実際に起きたらどうなるかというシミュレーションをしたわけです」

 現実に社会でも少年犯罪は後を絶ちません。そればかりか昔に比べて悲惨さは増幅しています。テレビで事件のニュースを見て、「悲惨だなあ」、「可哀想だなあ」と思っても、果たしてその事件に関わった様々な人たちの思いまで想像するのは容易いことではありません。この『さまよう刃』は、そんな様々な人たちの思いが描かれています。

 今日このブログ記事を書き始める前、先日神戸で起きた女児行方不明事件に関わることかも知れないというニュースが目に入って来ました。この『さまよう刃』を読んだ後ですから、まったくの第三者としてニュースを見ることができなくなったと感じています。この事件に関わっている人たちのことを想像すると、胸が痛みます。その痛みはこの本を読む前には味わったことのない痛みです。

 私的には最近ちょっとがっかりの作品が目立って来ている東野氏ですが、今回はストーリーの展開も小説として十分に満足しましたし、何より東野氏のシミュレーション(?)、実験(?)にまんまとはまってしまいました。



さまよう刃 (角川文庫)
角川グループパブリッシング
東野 圭吾

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by さまよう刃 (角川文庫) の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル


ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 7

なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)
ナイス ナイス ナイス ナイス

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック