最近読んだ本(42)――有川浩『海の底』

 最近ファンになった有川浩氏。昨年末に読んだ『空の中』に続いて今回は、『海の底』。

 『空の中』では航空自衛隊員が活躍したが、『海の底』では海上自衛隊員が活躍する。

 物語は春爛漫の4月、米軍横須賀基地で桜祭りなるイベントの日、基地は一般公開され大勢の見物客が賑わっているところから始まる。

 米軍基地内に停泊中の潜水艦「きりしお」の乗員であるところの海上自衛隊の若い二人、夏木三尉、冬原三尉が大騒動を起こした罰則として腕立て200回をこなしていたところに、突然警報が鳴り、緊急の出航となる。

 ところが潜水艦「きりしお」のエンジンを始動させるも、スクリューに障害物が噛み込み回らない。今度は全員退去の命令。艦上に出た乗員たちが見たものは、人間大の甲殻類――エビというよりはザリガニの大群が基地内にいた人々を襲い捕食する凄惨な光景だった。

 突然の海の底からの「怪獣」。逃げ惑う人々。夏木・冬原の二人は、成り行きで逃げている子供たち13人を連れて、潜水艦埠頭に戻り、襲ってくるザリガニのお化けから逃れるために潜水艦の中に逃げ込む。

 身動きできない潜水艦の中でやり過ごすことになった二人の自衛隊員と子供たちの合計15人が物語の中心のひとつ。そしてもうひとつの物語の中心となるのが、陸上でザリガニの大群と対峙することになる警察と機動隊、さらに自衛隊、米軍のやりとり。

 自衛隊は出動したものの、災害救助名目であるため法的に武器使用が認められない。人間を襲う「怪獣」を前にしながら武力を使えないもどかしさ。実際はこうなのだろうなと、現実味の帯びた話が続く。

 私などが子供の頃に見た『ゴジラ』などの映画では、すぐに自衛隊が出動して、火気使用ということになっていたが、現実はそう簡単なものではないのだろう。突拍子もない巨大ザリガニの群れなどを突然出して来ながら、真実味を帯びた話の展開。単なるSFものでは済まさない作者の力量に感心した。

 やがて、もたもたする警察と自衛隊に対して、米軍は街中火の海としかねない爆撃までしそうな話も出て来る。米軍ならやってしまいかねない。潜水艦に残された15人は見捨てられるのだろうか。

 その潜水艦の中に非難した子供たちは、ひとりの女子高生を除いて、あとはすべて男子の小中学生。物語の一方の中心である潜水艦の中の話は、ハラハラ、ドキドキ、ニヤニヤ、シンミリ。

 子供たちの中でもボス気取りの圭介という中学生が、実に「イヤな野郎」ぶりを発揮し、夏木隊員と事ある毎に衝突する。それを軽くいなす冬原隊員。有川氏は決して難しい言葉を使っていない。しかし、その行間に滲み出るものには深いものがあるし、人と人とのやりとりが実に生き生きとしている。

 自衛隊の中でも問題児扱いの夏木隊員は、言葉は乱暴だし、時に手も出すほど子供に対しても容赦ない。しかし、本当は心優しいいいおにいさんであることは、どこにもそんな文章はないが、読み始めてすぐにそれと読者が解ってしまう人物表現は素晴らしい。

 もしこの話が映画などで映像化されるとしたら、この夏木隊員は誰が演じるのがいいのかと私なりに考えながら読んでいたが、なかなか適当な役者さんがイメージできなかった。そして、もうひとり。唯一の女子である望という高校生。こちらもなかなか知っている若い女優さんの中には私のイメージに合う人は思い浮かばなかった。一般オーディションで新人を発掘するしかなさそうだ。……って、ワシは監督かプロデューサにでもなるつもりか?

 もっともこの作品を映像化するなんて、ちょっと簡単には行かないだろう。下手に作ってしまったら、CGばかりの陳腐な作品になりかねない。子供だましの怪獣映画になってしまうのがオチかも知れない。ここはやはり、私が監督するしかないかな? (^^ゞ

 以前読んだ『阪急電車』と前回の『空の中』でもホロッとさせられたが、今回は泣くものかと読んでいた。しかし最後はやっぱり、大人だから涙こそ流さなかった(笑)が、やっぱり胸が熱くなってしまった。

 今回も読んで損のないものだった。ますますファンになってしまった有川浩さん。やっぱりファンレターを書かなくては……。(^o^)

 で、巨大ザリガニの大群はどうなるかって? そんなこと、ここで私が言うことできるはずないじゃないですか。


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