高校2年の夏休みの思い出(4)

 この話は、こちらからの続きです。


 二泊三日の山陰での海水浴。2日目の夜。さんざん花火で遊んだ後、砂浜に腰を落とし、とりとめのない話をしていた。もう30年以上も前のことで、何を喋っていたのか思い出すはずもないが、結構笑える話ばかりしていた思う。とは言っても、今同じ話をしても笑えるかどうか。若い頃は、あとで思うとつまらない話でも大笑い出来るものなのだ。

 ふとO橋くんが言った。
「3人の好きな女の子のことを教え合おうよ」

 その時の私を含めた3人には、彼女らしい女の子はいなかった。そんな子がいれば、男3人で海水浴なんて来るもんですか! でも、それぞれ想っている女の子はいたはず。私自身、同じクラスにそんな子がいた。

 O橋くんの言葉にM野くんが、
「おう、お前、そんな子がいるのか?」と聞いた。
「あ、いや、俺はそんな子はいてへんけど・・・・・・」とO橋くん。
「自分から言い出しておいて、何やそれは。じゃあ、Tくん(私のことです)は?」と、M野くんは私のほうを向かずにそう言ってから、しばらく間をおいて私の顔をのぞき込んだ。

 私がすぐに返事せずに黙っていたものだから、
「おっ、お前、好きな子がいてるな」と言うM野くんのにやっとする顔が、街灯だけの薄暗い中に浮かび上がった。

 今、思えば、はっきりと否定しておけば良かったかも知れぬ。しかし、その時の私は、最初のO橋くんの提案に、迂闊にも憧れの女の子のことをふと頭に思い浮かべてにやけていたに違いない。そんな表情をM野くんにすかさず読み取られてしまったようだった。

「い、いや、俺にもそんな子はいてへん」と言ったが、その言葉に真実味は毛頭感じられなかったのだろう、M野くんは、
「ま、隠さんでもええやん。ここだけの話にしておくさかい、誰が好きなのか言うてみ。俺はO橋の知っている子か? さあ、さあ、言うてみって」と、詰め寄ってきた。横でO橋くんも、私の口から出る名前を期待している様子だった。

 私が密かに想っていた子は、O橋くんもM野くんも知っている同級生の子だった。小柄で話し方の可愛い女の子だった。これも今になって思うことだが、誰にも私の想いなど喋ってはいなかったけれど、普段の学校での私のそぶりなどで、O橋くんもM野くんもそれとなく薄々気が付いていたのかも知れない。

「ええから、ええから。早(はよ)う言うてみてよ。俺たち悪いようには言わへんから」と、O橋くんも促してきた。
「はっきり名前を言わんでもええで。イニシャルだけでも教えてくれよ」と言うM野くんの言葉に、私は思わずイニシャルを伝えかけた。言うのは恥ずかしかったが、片想いの苦しい胸の内を誰かに知って欲しい気持ちも私の中にもあったのか、もじもじしている私だった。

「そしたら、こないしょうか。俺たち、ちょっと向こうのほうへ行ってるから、ここに、この砂の上にその子のイニシャルを書いてみてよ。な、イニシャルだけやったら、俺たちにも誰のことか解らへんって」

 O橋くんがそう言った。私は想っている子のイニシャルと同じイニシャルの子が他にいるかどうか考えてみた。同じクラスにも隣のクラスにも、イニシャルの同じ名前の子が2・3人思い浮かんだ。はっきり知られるのも恥ずかしいが、他の人のことだと勘違いされても困る。イニシャルなんかではなくて、やはりはっきりと名前を言うべきじゃないかな。・・・・・・しかし、それは恥ずかしい。ここは曖昧にしておくほうがいいだろう。が、夏休みが終わり2学期が始まり、クラスでヘンな噂が立って、全然そうではない子に迷惑を掛けてもなあ・・・・・・。なんだかんだと私は自分自身でも煮え切らなかった。

 O橋くんとM野くんが、ジュースでも買ってくるわ、とその場を離れた。その間に書いておけと言うことだった。やはり何も伝えずにこの場は終わらそうと想ったりもしたが、結局悩んだ末、イニシャルだけなら解らんかも、と思い切ってイニシャルを書いた。胸の内を誰かに知ってもらいたい気が勝ったということか。

 それでも、私は街灯の灯りがわずかに届く程度の暗い場所を選んで、砂の上に想っている子のイニシャルを書いた。知られたくないという気持ちも残っていたから、そんな暗い場所を選んだのだろうか。今となってはよく思い出せない。ただ、目を閉じれば、はっきりとした夢のようにその時の自分の行動が頭に浮かび上がっては来る。

 柔らかい砂の上に手で『KY』と書いた。今の高校生だったら、その横にハートマークくらいつけるかも知れぬが、私は昭和の高校生。そんなことはしなかった。それでもけっこう大きく書いた。大きく書くということは、やはり知って欲しかったのか。このあたりの心境は複雑である。

 やがて戻って来たO橋くんとM野くん。私は、自分の書いた砂の上のイニシャルから少し離れてしゃがんでいた。ふたりは、私が指さすほうへ行って、私の書いたイニシャルを見て、ふたりで何やら喋っていた。暗かったからよく解らなかったはずだが、すぐにニコニコして私のところへ戻って来た。

「ふーん。『KY』か・・・・・・」と、まずO橋くん。
「そうか、そうやったんか・・・・・・」と、M野くんが腕組みをして頷いた。
 私は、ふたりに誰のイニシャルだと思っているのか気になってはいたが、聞き出す勇気はなかった。ずばり当たっていては、恥ずかしい。この後、何と言えばいいのか解らない。もし違う子のことを思われていたら、果たして否定しても信じてもらえるかどうか。いずれにしても墓穴を掘ることになりそうなので、黙ってふたりの次の言葉を待っていた。

「○○の○○ちゃんやな?!」
 M野くんがはっきりと名前を口に出した。心臓が一瞬止まった。見事に的中していた。私は、「違う、違う。その子と違うで。別の子や。もうええやんか。こんなことはやめようや」と、言えば言えたであろうに、その時の私は一瞬の間の後、こくりと頷いただけだった。

 やはり、元々M野くんには、薄々感じているところがあったのだろう。そんなイニシャルだけで、ずばりと女の子が誰であるか解るはずがない。その夜は、「そうか、そうか。○○さんのことが好きなのか・・・・・・」と言われただけで終わった。しかし、海水浴から帰って来て幾日か経った日の出来事に、この話は続いて行くのである。

 で、“他のふたりの好きな子は?”ということだが、その夜は私の砂の上へのイニシャルの告白だけで終わったように記憶している。他のふたりの話は聞けず仕舞いだった。いや、聞いたかも知れない。自分のことだけで熱くなってしまい覚えていないのかも知れぬ。何とも恥ずかしかった山陰の夜の浜辺での一コマでした。

この思い出話。そろそろ飽きて来たかと存じますが、まだ続きます。

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